詳しく知りたい方へ

研究代表あいさつ

この数年、SOGIの信頼できるデータはないのか、という問い合わせを受けることが増えてきました。どの性に恋愛感情や性的魅力を感じるか、自分をどの性別だと認識しているか、この2つを合わせてSOGIといいますが、具体的には、「SOGI別の人口割合を示すことのできる公的調査があるか、あるとしたらどのような設問でたずねているか、経済格差や健康格差を検証できる項目はあるか」という問い合わせでした。この照会に対し、残念ながら「日本には、まだこのような調査はない」と答えるしかありませんでした。

 

国によっては、大規模な公的調査にSOGIをたずねる項目を含めているため、さまざまな事柄について、SOGIによる統計的比較が可能となっています。こうした調査を企画する過程では、専門家たちが委員会を作ってSOGIをどう捉えるかの検討を重ねています。そうした流れの中、日本でも同様の調査をおこなう必要性を感じていました。

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    そもそも私がSOGIなど多様性の研究に関心を持つようになったのは、アメリカのスタンフォード大学大学院社会学研究科に在籍していた1980年代後半にさかのぼります。特に家族、ジェンダー、性のあり方に興味をもっていました。しかし当初は人種であれ、性にかんすることであれ、「多様性」の研究をするとキャリアに悪影響を与えるから伝統的なテーマを選ぶのが無難である、という風潮にありました。

     

    それから30年の月日が経ちました。この間、性の多様性を取り巻く世界の状況は大きく変化しました。私もこうした動向に刺激を受け、かねてから関心のあった同性カップルのインタビューを日本や海外で手がけるようになりました。

     

    しかしインタビューを積み重ねていっても、どうしても検証できないことがあります。それは「人々のSOGIという属性が、経済や健康になんらかの影響を与えているのだろうか」という疑問です。言い換えれば、性的マイノリティの教育達成、仕事の安定性、職業的な地位、収入、財産、心身の健康状態、家族形成の状況は、性的マイノリティでない人たちに比べ、統計的な違いがあるのだろうか、ということです。

     

    私がおこなってきたインタビューでは、自称レズビアンまたはバイセクシュアル女性の就労状況は、他の女性と比べると不安定であるように見えましたが、「インタビューした人たちが特殊だったのではないか」というコメントで片付けられてしまいます。実際のところ「性のあり方という要因が何かに違いをもたらすのか」については、不明確なままなのです。

     

    この究極の疑問に答えるためには、皆様にお願いしているこのアンケートのように、市民全体から無作為に選ばれた方々に、さまざまな質問への回答をお願した上で統計分析をする以外の方法はありません。

     

    そんな思いが強くなってきたのと時を同じくして、SOGIデータへの問い合わせが増えてきました。そこで、「LGBT」当事者に向けた量的調査に限界を感じはじめるなど、さまざまな理由から、この調査をおこなう必要があることに共感してくれる研究者たちとこのプロジェクトを立ち上げ、研究助成金を取得し、大阪市の協力を得て、3年がかりでようやく実現しました。

     

     

    私たちは、このアンケートに寄せられる皆様の回答が、今の大阪市の状況を描写するとともに、将来は重要な歴史的資料となると考えています。現に、海外でも日本でも、数十年前のデータが、今もさまざまな研究者によって活用されています。

     

    数年後に大阪市で同様のアンケートを実施すれば、時代による変化や施策の効果を検証できる可能性も出てきます。さらに定期的に実施すれば、他の資料や国で集める統計では得られない大阪市の長期的傾向を記録していくことができます。次世代に引き継がれる資料が、今日の大阪市の皆様のおかれた状況をできるだけ正確に示すものとなるように、ぜひ皆様に、ご回答へのご協力をお願いいたします。

研究目的と経緯

このアンケートは、「性的指向と性自認の人口学」という、5年間にわたる研究課題の一環として、おこなわれているものです。

このページでは、アンケートの母体ともいえる、研究課題の全体像を紹介します。

研究の背景

「LGBT」がメディア等でひんぱんに取り上げられるようになる前から、学問の世界では、性的指向(どの性に恋愛感情や性的魅力を感じるか)や性自認(自分をどの性別だと感じるか)にかかわる研究が積み重ねられてきました。ただし、関連する研究がどれくらいおこなわれているかは、分野によって大きな違いがあり、特に日本でおこなわれている社会人口学の研究では、性的指向や性自認を取り上げることはありませんでした。

社会人口学は、結婚、出生、地理的な移動、死亡にかかわる家族の形成や世帯の構造などの実態を捉え、分析する学問です。海外の先行研究からは、性的指向・性自認の理解を深めるには、社会人口学的分析が不可欠であり、社会人口学の発展にとっても性的指向・性自認の視点が有効であることが読み取れます。

そこで、研究チームは、日本においても社会人口学やその関連分野で、性的指向・性自認を考慮にいれた研究に取り組み、学術的な手法に基づいて性的指向・性自認にかんするデータを得ることが、性の多様性の実態の理解につながると確信しました。この研究企画を実現させるための研究資金を得るために、科研費に応募し採択されたことから、2016年にこの研究に着手することができました。

研究の目的

この研究は、以下のことを目指しています。

(A)社会人口学という学問領域に性的指向(どの性に恋愛感情や性的魅力を感じるか)や性自認(自分をどの性別だと感じるか)の視点を含めることには、どのような意義があるのか、そしてどのような方法でそれが可能となるのかを探ること

(B)性的指向、性自認のあり方を量的なデータとしてとらえてその多様性を描くこと、人びとの性的指向・性自認と、仕事・経済、家族関係、意識などとの関連性を、統計的に分析する基盤を作ること


具体的には、以下のことに取り組みます。

 

  1. 諸外国の調査・公的統計で性的指向・性自認を扱うことの議論ならびに先行研究をまとめ、社会調査・公的統計における性的指向・性自認の扱い方の指針と留意点を明らかにする

  2. 国内の既存調査を調べ、同性カップル世帯の特定化が可能な調査(世帯員全員の性別、世帯主との関係、配偶関係の項目を有する)を検索し、同性カップル世帯の分析の可能性を明らかにする

  3. 日本の国・自治体等がおこなう量的調査で性的指向・性自認を把握する方法(調査手法、質問文・選択肢、調査設計など)を日本の政治的・文化的土壌を考慮しながら多方面から検討し、調査実践を通じて調査方法を確立する

  4. 人口学研究と、性的指向・性自認にかんする研究の蓄積を踏まえたうえで、無作為抽出による調査によって、性的指向・性自認による生活実態の比較(家族関係、健康、経済状況など)を有効におこなえるモデル調査票を開発する

  5. モデル調査票を用いて実際に調査を実施し、収集したデータを用いて、LGBTなど性的マイノリティとそれ以外の層の社会経済的属性、健康状態や生活状況の提示と比較分析ならびに、LGBTなどの性的マイノリティの中での違いの分析をおこない、結果をまとめる

  6. 「生き方の多様化」といわれる中、LGBTなどの性的マイノリティを取り巻く社会環境を把握しその生活実態を相対化するために、家族形態/関係/意識の現状とその変容を、既存の量的データの分析から明らかにする

研究の意義

この研究は、社会人口学の中で目を向けられてこなかった、人びとの性的指向や性自認の多様性を捉え、その多様性も含めた特徴や生活実態を、統計的に分析することで客観的に明らかにする日本初の試みです。従来の社会人口学の知見を踏まえながら、家族研究や欧米の人口学の成果を十分に検討した上で企画された、という点でも、類例がなく独創的なものです。

「性的指向と性自認の研究」にかんしては、日本ではほぼ皆無であった、代表性のあるサンプルによる量的調査を実施する手法を確立すること、そして、LGBTなどの性的マイノリティとそれ以外の層、同性カップルと異性カップルとの間で、統計的に意味のある比較研究をおこなう基盤を作ることができます。また、健康状態の改善、学校・職場環境の改善、経済的困難の解消、自殺対策をはじめとする、LGBTなどの性的マイノリティにかんする政策的検討の重要な資料となるものです。つまり、社会人口学、家族研究、性的指向と性自認の研究の発展につながる課題です。

また、本研究は、これまで接点のなかった人口学と、周縁化されがちな性的指向と性自認の研究とを橋渡しするものです。性的指向・性自認にかんしての議論がなされていない日本の人口学にこれらを導入することで、将来人口推計など伝統的な研究領域に新たな発展をもたらす可能性があります。多様な家族像を取り入れた人口モデルの展開にも寄与し、分野の裾野を広げることにもつながります。

研究チームメンバー

この研究にかかわっているメンバーを紹介します。今回のアンケートは、それぞれの専門分野の立場から、意見を出し合ってつくりあげてきました。皆さんから寄せられる回答を統計分析するさいも、多様な視点に立っておこないます。

研究代表者

海外の研究協力者

国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部 第2室長

国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部長

明治学院大学  社会学部付属研究所  研究員

金沢大学 人間社会研究域 人間科学系 准教授

中央大学 客員研究員

法政大学 グローバル教養学部 教授

国立社会保障・人口問題研究所 人口構造研究部 第3室長

石川県立看護大学 講師

和光大学現代人間学部 教授

金沢大学 国際基幹教育院 准教授

国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 第1室長

ワシントン大学大学院社会学研究科 博士後期課程

神戸市看護大学 健康生活看護学領域  准教授

国立社会保障・人口問題研究所 情報調査分析部 主任研究官

早稲田大学 教育・総合科学学術院 准教授

会社員

ワシントン大学公共政策学科 教授

サンディエゴ州立大学 女性学部 教授

倫理審査委員会とは

ここでは、倫理審査委員会とはどのようなものなのかを説明しています。

このような委員会がある背景、そしてなぜ調査は倫理審査委員会の審査にかけなければならないのか、これを通過した審査はどんな意義があるのかを解説します。

倫理審査委員会の位置づけ

研究代表者の所属する国立社会保障・人口問題研究所では、「人を対象とする研究に関する倫理指針(PDF)」を定めています。この指針のもとで、研究にたずさわる者が、個人の尊厳や基本的人権を尊重しながら、安全・安心な方法で研究をおこなっているかどうかを審査する組織として、倫理審査委員会が設置されています。つまり、一般的にいえば「規格」審査にあたる組織にたとえられます。

委員には、保健・医療分野および自然科学分野の研究者、人文社会科学および倫理・法律分野の有識者、研究対象者の観点も含めて一般の立場から意見を述べることのできる者、研究所に所属する研究職の者が含まれています。

このアンケートは、対象者を住民基本台帳から無作為抽出する過程で個人情報が扱われること、また、対象となった皆さまに回答をお願いすることで負担をかけるため、倫理審査をうけるべき研究に該当します。

 

審査にあたっては、次の点に留意しておこなわれます。

  1. 研究の対象となる方々に予想されるリスクと、研究から得られる利益および知識の重要性を比較し、対象となる方々に対するリスクが妥当であること

  2. 研究対象者の選択が合理的であること

  3. 研究に参加を依頼するにあたって、対象者の方々への説明と同意を得る必要性があるかの判断にもとづき、必要な場合は説明と同意を得る方法が適切であること

  4. 説明と同意の取得が免除される場合の対象者の方々への説明および情報公開が適切であること

  5. 個人情報を保護する体制が整備されていること。

 

したがって、倫理審査委員会で承認された研究は、客観的な目からみて、上にあげた条件をクリアしたものであると、みなされます。

審査委員会に申請する内容

今回のアンケートで、倫理審査を受けたさいの申請内容について、研究代表者の釜野さおりが所属する国立社会保障・人口問題研究所の例を使って、説明します。

予想されるリスクについて

 生ずるリスクとして、性のあり方をたずねる項目が一部の対象者に精神的不安感・不快感を与える可能性があるため、以下のような対策を講じました。

  1. 質問内容にかかわらず、どうしても答えなくない質問への回答は強要しないことを、アンケートの表紙ならびにQ&Aに明記しました。

  2. 諸外国の先行研究や、公的調査において、いかに性的指向と性自認を扱うかについてのマニュアルを精読し、日本において、さまざまな人を対象とするアンケートにおいて、どのような方法・設問を用いて性的指向や性自認をたずねたらよいかを検討しました。

  3. 意見交換会や試験的アンケート等をおこなって適切な設問を探り、その結果を反映させた設問を用いました。

研究から得られる利益および知識の重要性について

 得られる成果としては以下のものがあり、対象者に与える精神的リスクを考慮しても、意義があるものと判断しています。

  1. 性の多様性を量的なデータでとらえ、「性的マイノリティ」とそうでない人の生活実態が統計的に比較できます。

  2. いわゆる「当事者」のみの実態をあらわすデータでは不可能だったことができます。

  3. 性のあり方にかかわらず、安心して生活できる社会に向けた施策の検討をするにあたり、科学的根拠のある基礎資料となります。

  4. 性的指向や性自認別の割合や人数について、学術的に信頼できるデータを提供できるだけでなく、「性的マイノリティ」や「性的マイノリティでない人」の性的指向や性自認の多様性が明らかになります。

研究対象者の選択の合理性について

  1. 対象者は、大阪市の住民基本台帳から無作為抽出により、18〜59歳の住民15,000人を抽出し、郵送配布、郵送回収としました(ウェブ画面での回答も可能)。

  2. このアンケートでは、特定の目的または作為的ではない形で、広く市民への調査をおこなうという「代表性」をもたせられるようにするため、完全無作為抽出である必要があります。さらに知り合い同士に当たらないために人口規模を考慮し、大阪市の文化的背景も加味しました。

研究に参加を依頼するにあたって、対象者の方々への説明と同意を得る必要性と、その方法が適切であるかについて

  1. 同封する文書や、ホームページを通じて説明を尽くし、了承を得られるように努めました。

  2. 調査目的、どのようにして対象者が選ばれたのか、なぜ大阪市でおこなうのか、住民基本台帳から個人情報を得ることはプライバシー侵害にはならないのかなど、不安に思われやすい点をQ&Aで説明しています。

  3. 参加の了承にかんしては、アンケートに回答を記入し、それを郵便で返送すること、または、インターネットで回答を送信することによって、研究への参加を同意したとみなすこと、アンケートへの回答は任意である旨を、それぞれの文書に記載しました。

個人情報を保護する体制について

 このアンケートにおいては、以下のように調査チームが回答者の住所氏名、IPアドレスなどの個人情報を扱えない仕組みを整えています。また、あとから回答者の追跡ができないようにするため、以下の手順を踏んでいます。

  1. アンケート原票に識別コードをつけない(回収されたアンケートはあとからだれのものか知ることができない)。

  2. 個別のウェブ回答用IDとパスワードの入ったアンケート一式は、業者によって密封し、大阪市市民局に送付。担当者が市の定めた「住民基本台帳の利用要領」などに基づき住民基本台帳から対象者を抽出し、密封された封筒1通ずつ順不同に宛名ラベルを貼り、送付する(開封しないので、ID・パスワードと住所氏名をひもづけることができない)。

  3. 「お礼はがき」も、同様の方法で送付する。

  4. アンケート用紙の回収、開封、入力は、委託業者がおこなう。取り扱いは社内や公益財団法人日本世論調査協会の「倫理綱領・実践規程」などに定められた個人情報の取り扱い方針等にしたがう。ウェブ回答時に届く端末にかんする情報は、業者の方で集計前に完全に削除し、削除後のデータのみを保管する。

  5. 研究代表者には、業者より回答が数値化されたデータと、回答済みのアンケート原本のみ納品する。アンケート原票は、国立社会保障・人口問題研究所において、鍵のかかったキャビネットに保管後、5年を経過した年度末までに、研究代表者の責任で煮溶かしに出し、廃棄する。

各種お問い合わせ先

ご質問やご意見等、ご不明な点がありましたらお問い合わせください。

0800-800-2286

携帯電話、固定電話(IP含む)無料

受付時間 月〜金 9:00-12:00/13:00-17:00

osaka-chosa@sjc.or.jp

[業務委託先] 一般社団法人 新情報センター ( 担当:安藤・日高 ) 
所在地 東京都渋谷区恵比寿1-19-15 
http://www.sjc.or.jp/

調査主体

厚生労働省 国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部 第2室長 釜野さおり 代表

「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム(日本学術振興会 科学研究費助成事業)

〒100-0011 東京都千代田区内幸町2-2-3 日比谷国際ビル6F

03-3595-2984 osaka-chosa@ipss.go.jp http://www.ipss.go.jp

調査協力

大阪市

大阪市の協力を得て、

3年がかりでようやく
実現しました。

釜野さおり

社会学国立社会保障・人口問題研究所

人口動向研究部 第2室長